業界探訪シリーズ 第6回「葬儀業界」 Part.2
マニュアル研修とは違う「ハート」の教育


 昨年12月「ハイ・サービス日本300選」の第一回受賞企業(21社)の中に、旭山動物園や加賀屋などと並び、ある葬儀会社が選ばれた。「葬儀業界の研修トレンド」の後編では、「感動葬儀社」あるいは「東京ドラマティック葬儀社」として知られる株式会社アーバンフューネスコーポレーションの社員研修に着目した



●告別式の後にサプライズ演出

株式会社アーバンフューネスコーポレーション 加藤 勉取締役 その日、都内のある葬儀会館では、参列者の誰もが予想もしていなかったある一つの「サプライズ」があった。

 告別式を終えた故人の棺が親族や知人に見守られながら、棺が霊柩車へと運ばれようとしていたそのとき、祭の風物詩である和太鼓がドンドンドン、ドドン、ドーン♪開いた扉の向こうで、祭ハッピに身を包んだ大勢の奏者が「送り太鼓」を叩いている。

 最初は面食らい、驚きの表情を見せていた親族や知人だったが、すぐにその「意味」を察した。そして、目には涙を浮かべながら故人の遺影と位牌、そして故人の棺を抱え、その葬送曲ならぬ「送り太鼓」の演奏の中をゆっくりと通り過ぎていった。

 「故人は浅草出身で、三社祭などの祭がとても好きな人だったそうです。ならば、故人のために、そして故人を見送る親族のために、最後に何かしてあげられることはないか。スタッフがそう考えた末に生まれたのが、この送り太鼓によるサプライズ演出でした」。

 そう語るのは株式会社アーバンフューネスコーポレーションの加藤 勉取締役(以下、加藤氏)。

 「感動葬儀社」として知られる同社は昨年末「ハイ・サービス日本300選」の第一回受賞企業21社にも、旭山動物園や加賀屋などと並んで選出されている。もちろん葬儀会社としては唯一の受賞である。


●クオリティ管理とナレッジの共有

 近年、遺族の葬儀に対する意識も変わり、傾向としては「火葬のみ」で葬式は行わない「簡略型」の葬儀を求める遺族が急増しているという。葬儀会社によっては「火葬のみ」が全体の3〜4割というケースもある。

 「お葬式というと、今まではどこかやらされ感もあったと思うのです。ましてや家族を失い、心身ともに疲れ切っている遺族にとって、お葬式で故人に何かをしてあげたいと思うだけの精神的な余裕はないのが普通です。しかし、人は大切な人が亡くなってはじめて『気づかれる』こともあって『もっと大切にしてあげたかった』『遺族として最後に何かをしてあげられないか』そうした思いが、遺族へのインタビューの中では浮かび上がってきます。お葬式の価値や大切さを再認識してもらえる。それもインタビューの重要な役割だと思っています」(加藤氏)。

 「遺族へのインタビュー」―。同社のドラマティック葬儀、そしてそれを演出役となるスタッフの社員教育にスポットを当てる場合、このインタビューの役割はとても大きい。

 冒頭の「送り太鼓」もそうだが、同社の葬儀ではこうした感動演出を具現化するにあたり、その遺族に対して担当スタッフがインタビューを行っている。浮かび上がった故人に関するエピソードを社内に持ち帰ったスタッフは、急遽、社内にいるスタッフを招集。ホワイトボートを使いながら自らが考えた「感動葬儀」案のプレゼンテーションが行われるのが通例だ。そこでは同僚から、あるいは上司から「そこのポイントは何?」「その場合、祭壇はどうなるの?」などの遠慮のない質問や意見が投げかけられる。

 「新人に対してはベテランスタッフのプレゼンテーションを間近で見ることで勉強になりますし、逆にまだインタビュー経験の浅いスタッフの場合は、人物像や遺族との関係をその場で説明し、先輩スタッフなどからのアドバイスが受けられます。当社のプレゼンテーションは、クオリティ管理の場であると同時にナレッジ共有の場。こうした仕組みが構築できたのは半年前からですが、当社の人材教育の特徴の一つです」(加藤氏)。


●インタビューが自身の勉強に

インタビューが自身の勉強に もちろん、肉親を失い、悲しみで精神が不安定な遺族へのインタビューという行為には、高いコミュニケーションスキルが必要だ。

 こんな事例があった。

 町工場で働く70歳ぐらいの父親が亡くなり、スタッフがその遺族である息子にインタビューをした。しかし、貧しかった家族の生活の中で出てきたのは「父親にはヘソクリがあり、せめて、それを葬儀代にして盛大にやりたい」という息子としての最後の思いだけ。

 「全然インタビューができませんでした」。うな垂れて戻ってきたスタッフに、先輩スタッフは入院中の母親へのインタビューを奨めた。しかし、そこでも得られた人物像は「無口でギャンブルもしない朴訥とした夫であった」というもの。

 ただ「家族には内緒でお金を貯めていた」と漏らした母親の一言を聞いたとき、スタッフには息子が話していた父親のヘソクリが一瞬、脳裏を掠めた。

 「その貯金は何を目的に?」。その質問に答えた母親の「次の言葉」を聞いたとき、スタッフは全身に衝撃が走ったという。「最後に家族みんなで温泉にいくために…」。

 お通夜。食事を済ませた遺族、親類が祭壇のある会場へ戻ったとき、そこには周囲が竹やぶに囲まれた露天風呂がセットされていた。温泉も都内の本物の温泉水を使用した。

 「そのとき、息子たちは初めてヘソクリの本当の目的を知りました。その中央に置かれた棺に眠る父親の遺体を、温泉で泣きながら拭いていた姿は今も忘れられません。人には派手さはなくても、そうしたストーリーがあるのです。それを諦めずにインタビューし続けた結果だと思います。当社のスタッフはいつもこう言います。毎回、こちらが逆に勉強をさせてもらっている、と」(加藤氏)。


●根底にある「使命感」

 葬儀業界はサービス業ではあっても、まだまだ職人気質が根強い世界。社員教育においても「知識の習得」や「技術の習得」が中心だ。

 しかし、同社の社員研修では、遺族へのインタビューがそうであるように「家族を亡くした遺族の心持ちはどうなのか」「この場面ではどのような話をするべきなのか」など、マインド面でのロールプレイング教育に注力しているのが特徴だ。

 また、新人スタッフに対しては「半年間の経験で、一人で任せられる人材に」を目標に、同社では電話受付、病院への搬送、遺族との打ち合わせとインタビュー、ドラマチィック演出の内容、さらに会場のセッティング、お通夜、告別式までをすべて一人のスタッフが担当する。

 大手葬儀会社などでは葬儀搬送は外注化が進んでいるが、加藤氏はあえて「一人がすべての葬儀を一貫して担当することの重要性」を強調する。

 「新人教育でのロールプレイングでも、必ず葬儀搬送の場面から入るようにしています。なぜなら、搬送時に、暗い霊安室の中で大切な人を亡くした遺族の人たちに話す声のトーンや動作一つで相手に与える印象も違います。霊柩車のドアの閉め方やストレッチャー(担架)のスムーズな扱い方にしても、すべてロールプレイングで繰り返します。この一連の流れは他の葬儀会社でも同じ工程かもしれませんが、せっかく信用を得て、この人になら話をしてみようかと思われても、そこで搬送が外注では関係が崩れてしまう不安もあるからです」。

 取材中、加藤氏の口からは何度か「使命感」という言葉が出た。葬儀というある種、特殊な状況下「自分たちがやらなければ、遺族からの「本音」の声や気持ちが出てこない」という使命感。

 そこにはマニュアル研修とは違う、やはり「ハート」(心)の教育が息づいているようだ。

(リポート 伊藤秀範)